その人は昔

映画『その人は昔』は、1967年7月1日に東宝配給で公開された、舟木一夫さんと内藤洋子さんが主演を務める美しくも哀しい歌謡・青春ミュージカル映画です。舟木一夫さんのヒットLP盤「心のステレオ・その人は昔」を、松山善三監督が自ら原作・脚色を手がけて映画化しました。北海道から夢を抱いて上京した若い男女が、冷酷な都会の波に翻弄され、悲劇へと向かっていく姿を描いています。

主な登場人物

  • 青年(舟木一夫):北海道百人浜出身の純朴な青年。東京の印刷工場で真面目に働きます。
  • 少女・洋子(内藤洋子):青年の恋人。喫茶店で働きながらタイピストの学校に通う健気な少女です。
  • あいつ(山中康司):スポーツカーを乗り回す、金持ちの不実な男。

詳しいあらすじ

北海道の百人浜で出会った青年と少女は、お互いに貧しい環境で育ちながらも、純粋な愛を育んでいきました。長い冬が明けた春、二人は幸せな未来を夢見て一緒に東京へ駆け落ち(上京)します。

東京での生活が始まると、青年は印刷所の工員、少女は喫茶店のウェイトレスとして働き始め、日曜日だけのささやかなデートを楽しみに懸命に生きていました。しかし、ある日曜日、少女は約束の場所に現れませんでした。

少女は「あいつ」と呼ばれる裕福な男に声をかけられ、彼のスポーツカーや豪華な服、きらびやかな都会の富に魅了されてしまっていたのです。少女の服装や髪型は派手になり、青年との距離は開いていきました。ところが「あいつ」は突然、新しい妻を連れて少女の前に現れ、わずか10万円を渡してアメリカへ去ってしまいます。

捨てられ、深く傷ついた少女は再び青年のもとへ戻り、以前の純真さを取り戻したかのように見えました。しかし、犯した過ちの記憶を消し去ることはできず、絶望した少女は翌日、ボートで羽田沖へと漕ぎ出し、そのまま帰らぬ人となってしまいます。その頃、青年は職場の輪転機に指を挟まれる大怪我を負い、病院のベッドでただひたすらに少女の名前を叫び続けていました。

作品の特徴と魅力

  • 大ヒット挿入歌:劇中で内藤洋子さんが歌った挿入歌「白馬のルンナ」は、当時の若者の間で大ヒットを記録しました。
  • 和製ミュージカルの試み:全編にわたって音楽や歌がストーリーを紡ぐ、格調高い叙情的なミュージカル仕立ての演出が特徴です。

原点:LP「こころのステレオ その人は昔」の楽曲構成

このLPが当時の芸術祭参加作品となり、歌謡界の常識を覆す大ヒットを記録したことで、東宝での実写映画化が決定しました。


映画『その人は昔』キャスト・制作の裏話

1. 内藤洋子さんの抜擢と「白馬のルンナ」誕生の裏側

LP盤で少女の声を演じたのは松本典子さんでしたが、映画化にあたり、当時東宝の清純派トップスターだった内藤洋子さんがヒロインに抜擢されました。
劇中で彼女が歌い大ヒットした「白馬のルンナ」ですが、実は内藤さんはもともと歌に大変な苦手意識(音痴への恐怖)を持っていました。そのため、レコーディング時は非常に緊張し、あえてたどたどしく語りかけるような、あの独特で愛らしい「少女らしい歌唱スタイル」が生まれたと言われています。これが逆に若者の心を掴み、映画を代表する大ヒット挿入歌となりました。

2. 徹底して排除された「固有名詞」

劇中では、舟木一夫さんは「青年」、内藤洋子さんは「少女」、山中康司さんは「あいつ」としか呼ばれません。
これは原作・監督の松山善三氏の強いこだわりによるものです。特定の誰かの物語ではなく、「地方から夢を見て上京し、都会に消費されていく、当時の若者たち全体の普遍的な悲劇」として描くために、固有名詞が徹底して排除されました(※のちに発売されたコミライズ版の漫画などでは、便宜上「一夫」「洋子」という名前が使われています)。

3. 船村徹先生の「影の大名曲」

作曲を手がけた巨匠・船村徹先生にとって、この作品のテーマ曲(「その人は昔」のテーマ)は特別な存在でした。当時はシングルカット(単曲発売)されず、アルバムの中だけで聴ける楽曲でしたが、船村先生も舟木さんもこの曲を「影の大名曲」として非常に大切にされていました。
映画公開から半世紀以上経った2018年、舟木一夫さんのコンサートツアーのラストでこのテーマ曲が歌われ、ファンの間で大絶賛を浴びたことから、2018年に初めて「新録音シングル」として単独CD化されました。

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