鶴八鶴次郎

舟木一夫さんが主演した舞台『鶴八鶴次郎(つるはちつるじろう)』は、2008年10月に東京・新橋演舞場の「舟木一夫特別公演」として上演された記念碑的な名作舞台です。

かつて明治座で公演していた若い頃に、原作者であり新派の重鎮でもあった作家・川口松太郎氏本人から「ぜひ演じてほしい」と直々に口説かれていた因縁の演目であり、新派創始120周年を迎えた2008年に満を持して初挑戦しました。

この舞台の概要や見どころを分かりやすく整理してご紹介します。

舞台の概要

  • 上演時期・場所:2008年(平成20年)10月、新橋演舞場
  • 原作:川口松太郎(第1回直木賞受賞作)
  • 主なキャスト
    • 鶴次郎 役:舟木一夫
    • 鶴八 役:長谷川稀世(長谷川一夫さんの次女)

らすじと舟木さんの役どころ

大正時代の東京を舞台に、新内節(しんないぶし)の太夫(語り手)である鶴次郎と、三味線弾きの鶴八という、芸の上で息がぴったりな名人コンビの切ない恋と意地を描いた物語です。

二人は互いに深く惚れ合っていながらも、芸人としてのプライドと意地から顔を合わせれば喧嘩ばかり。やがてすれ違いから鶴八は別の男性と結婚して芸を退きますが、のちに再びコンビを組む機会が訪れます。しかし、鶴次郎は彼女の幸せのために、あえて「心にもない嘘」をついて泥をかぶり、涙をのんで意地を張り通します。舟木一夫さんは、江戸前のいなせな雰囲気と、不器用で情に厚い芸人・鶴次郎を熱演しました。

舞台の大きな見どころ

  • はまり役としての評価:小気味よいセリフの間や声のテンション、和装・かつら姿が非常によく似合い、ファンからも絶賛されました。
  • 「野育ちと血筋」の共演:舟木さんは自身の役者としての立ち位置を「野育ち」と称し、名門の「血筋」を持つ役者との共演を大切にしていました。本作でヒロイン・鶴八を演じた長谷川稀世さんとのコンビネーションは、日本の伝統的な情緒をたっぷりと魅せる素晴らしいものとなりました。
  • 第2部のシアターコンサート:舞台(第1部)の後には、お馴染みの華やかな歌謡コンサートが開催され、満員御礼の客席を大いに沸かせました。

    2008年10月に新橋演舞場で上演された舟木一夫さん主演の舞台『鶴八鶴次郎』の豪華な客演・共演陣の顔ぶれ、および舟木さんと作家・川口松太郎氏との深いつながりから生まれた他の一大名作舞台について詳しくご紹介します。

    1. 『鶴八鶴次郎』の主な出演者情報
    本作は、舟木さんが重んじる「野育ち(自身のようなたたき上げ)」と「血筋(芸の伝統を継ぐ名門)」の噛み合いが美しく表現されたキャスティングが特徴です。脇を固める役者陣も、商業演劇や新派、時代劇の重鎮たちが揃いました。
    鶴八 役:長谷川稀世昭和の大スター・長谷川一夫さんの次女。舟木さんの舞台のヒロインとして数多く共演しており、本作でも息の合った演技で、意地を張り合う新内の名コンビを艶やかに演じきりました。
    大山克巳新国劇出身の名優。重厚な存在感と確かな演技力で舞台を引き締め、芸の世界の厳しさや人間模様に深みを与えました。
    高田次郎松竹新喜劇の代表的な俳優。シリアスになりがちな物語の中に、小気味よいテンポと温かみのある笑い、確かな情調を添える重要な役割を担いました。
    青山良彦大映の時代劇映画などで活躍した二枚目俳優。舟木さんの特別公演には欠かせないお馴染みの実力派として、大正の粋な空気感を支えました。

    2. 舟木一夫さんが演じた「川口松太郎作品」
    原作の川口松太郎氏は、劇団新派の柱となる数々の名作を世に送り出し、第一回直木賞を受賞した日本を代表する劇作家・小説家です。若い頃の舟木さんに「君の空気は新派だから、いつか演じてほしい」と託した言葉の通り、舟木さんは後年、川口文学の世界を次々と舞台で花開かせました。

    ① 『風流深川唄(ふうりゅうふかがわうた)
    概要:川口松太郎氏が1935年に直木賞を受賞した短編を舞台化した名作です。
    舟木さんの足跡:舟木さんは1999年の自身の特別公演などで本作に挑んでいます。
    見どころ:江戸情緒が色濃く残る深川の街を舞台に、美貌の芸者や職人たちの意地と、切ない恋模様が情緒たっぷりに描かれます。『鶴八鶴次郎』にも通じる「江戸っ子の粋と哀愁」が漂う演目であり、舟木さんの和装の着こなしや、いなせなセリフ回しが際立つ傑作舞台となりました。

    ② 『明治一代女(めいじいちだいおんな)』と舟木一夫の舞台
    ご質問に挙げていただいた『明治一代女』は、川口松太郎氏が実在の事件(花井お梅の事件)を基に描き下ろした、新派演劇の最高峰とされる大メロドラマです。粋な芸妓の世界の駆け引きや、狂おしいまでの色恋が時代を超えて愛されています。
    舟木さん自身が座長としてこの『明治一代女』を丸ごと主演(ヒロイン・お梅役など)したわけではありませんが、舟木一夫特別公演の「脚本・演出」の系譜において、この作品は非常に重要な繋がりを持っています。
    美空ひばりさんとの縁:昭和44年(1969年)に明治座で、美空ひばりさんが川口松太郎氏本人の作・演出により『ひばりの一代女』(明治一代女のひばり版)を上演しました。当時、同じ明治座の座長としてしのぎを削り、のちにひばりさんから多大な影響と舞台の心得を受け継いだのが舟木さんでした。
    齋藤雅文氏・金子良次氏のコンビ:近年の舟木一夫特別公演(『壬生義士伝』や『忠臣蔵』など)で脚本・演出を手掛ける新派の齋藤雅文氏と金子良次氏のコンビは、他座長の『明治一代女』の舞台も数多く手掛けています。
    このように、舟木さんの舞台を支えるスタッフワークや芸の精神には、川口松太郎氏の血脈である「新派の古典人情劇」の薫りが今も脈々と息づいています。

鶴八鶴次郎