次男坊鴉

舟木一夫さんの特別公演における代表的な時代劇演目のひとつ「次男坊鴉(じなんぼうがらす)」は、1990年代から2000年代にかけて各主要劇場で繰り返し上演され、多くのファンに愛されてきた名作舞台です。

この作品に関する主な上演記録や特徴は以下の通りです。

主な上演歴史と背景

舟木一夫さんが歌手・役者としての「復活」を確固たるものにし、精力的に劇場での1カ月座長公演を行っていた時期に重宝された演目です。

1994年11月(名古屋・中日劇場)
舟木さんが50歳を迎える(または迎える直前の)節目の年、11月に中日劇場で上演されました。この翌月(12月)には大阪新歌舞伎座で「はぐれ鴉」が上演されており、2カ月連続で「鴉(からす)」を冠した股旅(またたび)ものの舞台に挑む過密スケジュールが当時話題を呼びました。

1996年7月(京都・南座)
舟木さん(当時51歳)にとって初めての「京都南座・1カ月座長公演」として本演目が選ばれました。当時、各スポーツ紙でも大きく報道され、夏の京都を大いに沸かせた記念碑的な公演です。

2007年10月(大阪・新歌舞伎座)
「芸能生活四十五周年記念 特別公演」の演目として、大阪の新歌舞伎座で大々的に上演されました。

舞台の特徴と見どころ

王道の股旅・時代劇エンターテインメント
義理と人情、小気味よい立ち回り(殺陣)、そして切ない男の生き様を描いた王道の股旅ものです。舟木さんのいなせな着流し姿や、キレのある刀さばきが大きな見どころとなっています。

二部構成の楽しさ
舟木一夫さんの特別公演は、第一部が「お芝居(次男坊鴉)」、第二部が「オン・ステージ(ヒットパレード)」という豪華な二部構成がお決まりとなっています。芝居で涙し、後半の歌謡ショーで往年の名曲(『高校三年生』など)に酔いしれるという、満足度の高い構成が特徴です。

千秋楽のお楽しみ
舟木さんの舞台では、千秋楽になるとシリアスな場面にコミカルなアドリブや遊びの要素がふんだんに盛り込まれ、客席と舞台上が一体となってお祭り騒ぎのように盛り上がる劇場の空気感もファンの間で有名です。

2007年の四十五周年記念公演(新歌舞伎座)の模様などは、『舟木一夫 芸能生活四十五周年記念 特別講演 次男坊鴉』としてDVD化(2枚組など)もされており、当時の熱気ある舞台を現在でも映像で振り返ることができます。

スマホの場合は、横にしてご覧ください。

その人は昔

映画『その人は昔』は、1967年7月1日に東宝配給で公開された、舟木一夫さんと内藤洋子さんが主演を務める美しくも哀しい歌謡・青春ミュージカル映画です。舟木一夫さんのヒットLP盤「心のステレオ・その人は昔」を、松山善三監督が自ら原作・脚色を手がけて映画化しました。北海道から夢を抱いて上京した若い男女が、冷酷な都会の波に翻弄され、悲劇へと向かっていく姿を描いています。

主な登場人物

  • 青年(舟木一夫):北海道百人浜出身の純朴な青年。東京の印刷工場で真面目に働きます。
  • 少女・洋子(内藤洋子):青年の恋人。喫茶店で働きながらタイピストの学校に通う健気な少女です。
  • あいつ(山中康司):スポーツカーを乗り回す、金持ちの不実な男。

詳しいあらすじ

北海道の百人浜で出会った青年と少女は、お互いに貧しい環境で育ちながらも、純粋な愛を育んでいきました。長い冬が明けた春、二人は幸せな未来を夢見て一緒に東京へ駆け落ち(上京)します。

東京での生活が始まると、青年は印刷所の工員、少女は喫茶店のウェイトレスとして働き始め、日曜日だけのささやかなデートを楽しみに懸命に生きていました。しかし、ある日曜日、少女は約束の場所に現れませんでした。

少女は「あいつ」と呼ばれる裕福な男に声をかけられ、彼のスポーツカーや豪華な服、きらびやかな都会の富に魅了されてしまっていたのです。少女の服装や髪型は派手になり、青年との距離は開いていきました。ところが「あいつ」は突然、新しい妻を連れて少女の前に現れ、わずか10万円を渡してアメリカへ去ってしまいます。

捨てられ、深く傷ついた少女は再び青年のもとへ戻り、以前の純真さを取り戻したかのように見えました。しかし、犯した過ちの記憶を消し去ることはできず、絶望した少女は翌日、ボートで羽田沖へと漕ぎ出し、そのまま帰らぬ人となってしまいます。その頃、青年は職場の輪転機に指を挟まれる大怪我を負い、病院のベッドでただひたすらに少女の名前を叫び続けていました。

作品の特徴と魅力

  • 大ヒット挿入歌:劇中で内藤洋子さんが歌った挿入歌「白馬のルンナ」は、当時の若者の間で大ヒットを記録しました。
  • 和製ミュージカルの試み:全編にわたって音楽や歌がストーリーを紡ぐ、格調高い叙情的なミュージカル仕立ての演出が特徴です。

原点:LP「こころのステレオ その人は昔」の楽曲構成

このLPが当時の芸術祭参加作品となり、歌謡界の常識を覆す大ヒットを記録したことで、東宝での実写映画化が決定しました。


映画『その人は昔』キャスト・制作の裏話

1. 内藤洋子さんの抜擢と「白馬のルンナ」誕生の裏側

LP盤で少女の声を演じたのは松本典子さんでしたが、映画化にあたり、当時東宝の清純派トップスターだった内藤洋子さんがヒロインに抜擢されました。
劇中で彼女が歌い大ヒットした「白馬のルンナ」ですが、実は内藤さんはもともと歌に大変な苦手意識(音痴への恐怖)を持っていました。そのため、レコーディング時は非常に緊張し、あえてたどたどしく語りかけるような、あの独特で愛らしい「少女らしい歌唱スタイル」が生まれたと言われています。これが逆に若者の心を掴み、映画を代表する大ヒット挿入歌となりました。

2. 徹底して排除された「固有名詞」

劇中では、舟木一夫さんは「青年」、内藤洋子さんは「少女」、山中康司さんは「あいつ」としか呼ばれません。
これは原作・監督の松山善三氏の強いこだわりによるものです。特定の誰かの物語ではなく、「地方から夢を見て上京し、都会に消費されていく、当時の若者たち全体の普遍的な悲劇」として描くために、固有名詞が徹底して排除されました(※のちに発売されたコミライズ版の漫画などでは、便宜上「一夫」「洋子」という名前が使われています)。

3. 船村徹先生の「影の大名曲」

作曲を手がけた巨匠・船村徹先生にとって、この作品のテーマ曲(「その人は昔」のテーマ)は特別な存在でした。当時はシングルカット(単曲発売)されず、アルバムの中だけで聴ける楽曲でしたが、船村先生も舟木さんもこの曲を「影の大名曲」として非常に大切にされていました。
映画公開から半世紀以上経った2018年、舟木一夫さんのコンサートツアーのラストでこのテーマ曲が歌われ、ファンの間で大絶賛を浴びたことから、2018年に初めて「新録音シングル」として単独CD化されました。